2018年12月9日日曜日

釣り回帰② ~ワカサギ釣り~

ある日、釣りのお誘いをいただいた。ワカサギ釣りに行くという。たまたまその日が空いていた。よくわからないがお願いしますと同行させていただいた。

とある落語会の打ち上げでK氏という方と意気投合した。少し先輩ではあるが同年代、釣りの話でである。他の皆さんそっちのけで盛り上がってしまった。私にとっては釣りは過去のことだが、K氏はちゃんと仕事もして、家族も持ちつつ、今でも釣りに狂っているという。うらやましいかな、である。今の自分にそんな余裕はないが、またどこかに連れて行ってください、と言って別れた。その後しばらくしてワカサギ釣りのお誘いをいただいたのだ。

ワカサギ釣りなどしたことがない。氷の上に穴をあけてやるものだというイメージだが、そうではない。奈良の津風呂湖にボートを浮かべて釣るという。

釣り人の朝は早い。落語家の朝は遅い。目をこすりつつ、まだ日の暗い内に待ち合わせ、現地に向かう。こんな時間にと思うがもうすでに釣り人達はスタートしている。遅ればせに手漕ぎのボートに魚探を積み込み出船する。なんだか本格的である。良さげな入り江にはもう一艇のボートが入っていたがその隣に入れていただき、碇(おもり)をおろす。

こちらは道具を持っていないどころか釣り方さえわからない。すべてK氏の道具を借り、段取りしていただいた仕掛けとエサでやるという大名のような釣りをさせていただく。

ワカサギは数釣りだ。その大会にも出るというK氏の道具は素人目に見てもなかなかのものである。というより、私の記憶にある釣りとは隔世の感がある。魚探で底の状況を把握しながら、ワカサギ専用のカウンターのついた電動リールに細い細いPEラインを巻き、その仕掛けをひとりで左右に二本出す。エサは紅サシを半分に切って使う。二本の竿で、針の数も多いのでそれらを手際よく扱うのはたいへんだ。こいつで時には一日1000匹を超えるワカサギを釣るという。ちょっとした漁である。

使い方をレクチャーいただきつつ、リールの動作を試すためにエサもつけずカラバリのまま仕掛けを落とすとワカサギが食いついてきた。活性は高いようだ。仕掛けを上げ、もたもたしながらワカサギを針から外す。そうこうしているうちにK氏は魚探を見ながら「魚(ワカサギの群れ)が入ってきてますよ」と言い、もう数匹のワカサギを上げている。一本の仕掛けに素早くエサをつけながら、もう一本の竿のあたりをとり、そいつを電動リールで上げると自家製の針はずしでワカサギを取っていく。初めての人間にできる芸当ではない。

その姿をを眺めつつ、またリールの使い方を確認するためにまたカラバリのまま仕掛けを下すとそのカラバリにまたもや2匹のワカサギが食いついてきた。リールの扱いも、エサの付け方もわからぬまま、3匹の魚の姿を見てしまった。「今、いい感じです。どんどん釣りましょう」というK氏。ワカサギの群れは動いていく。そのタイミングが重要らしい。そのままエサなしで仕掛けを下すとやっぱり食いついてくる。休むわけにはいかない。見よう見まねで針を外すと、エサをつける時間がもったいない、そのまま仕掛けを下す、また食いついてくる。そのまま半時間は釣れ続いただろうか。ふと5メートルも離れていない隣のボートを見ると、あまり釣れていない様子。こちらはエサもつけずただ仕掛けを下しているだけでどんどんワカサギが上がる。なんだかよくわからない不思議な体験である。

その後一日エサなしで釣り続けた。釣っている本人も持って行ったおにぎりやパンも食べることなく(その暇もなく)、エサなしで釣り続ける。結局、300匹を超えるワカサギを釣った。こんな数の魚を釣ったのは生まれて初めてだ。ちゃんとエサを付け手際よく釣るK氏は私にレクチャーしながらも700匹は超えていただろう。


釣り人は「釣りは釣れなくても楽しいよ。」などと言う。私も子供の頃からそんなことをつぶやいていた。ただの釣れない言い訳、強がりなのだが、そうすることで己を慰め、奮い立たせていた。でもやはり釣りは釣れると楽しい。童心に返るというのか、純粋に、無心で楽しんだ一日だった。

ボートで桟橋に帰ると、皆が釣れている訳ではなかった。ひどい人は一日粘って二桁に届いていない方もいた。エサもつけないで300匹釣りましたとは、申し訳なく、恥ずかしくて口にも出せない。

帰りの道中、釣れた理由を考えてみる。とにかく場所がよかった。隣のボートとは5メートルも離れていないが、入り江の底のかけ上がりがちょうどワカサギの通り道になっていたのだろう。これで隣と釣果に違いが出た。K氏が手返し良くエサを入れ続けその魚たちを呼び、ポイントに魚をとどめておいてくれた。その活性の上がった魚たちはカラバリに食いついた。ただどんな針でも良いわけではない。ちょうどいい大きさの赤い色の針にしか食わない。金色の針は見事に食わなかった。たまたまその仕掛けを提供していただいていただけのこと。そのK氏すらエサなしでこんなに釣っているのは見たことがないという。そらそうだ、疑似餌でもないカラバリで釣るなんて、日々ワカサギ釣りをしている人の発想にはないだろう。一応こちらもただの釣り初心者ではない。絶え間なく水深を探り、カラバリで誘いを入れていた。

まあ、色々ああったのだろうが、いわゆる”ビギナーズラック”である。博打も釣りもなぜかビギナーズラックがあり、そこからズブズブとはまっていく。そして、前はあんなに釣れたのになあと通いつめ、挙句「釣りは釣れなくても楽しいよ。」とつぶやくのだ。

釣れたワカサギを唐揚げ、素焼き、アヒージョで味わいながら、釣りってなんでこうなるのかと思いつつ、またの機会を求めている自分がいた。








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